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【韓国の会計・税務レポート】配当所得に対する軽減税率の適用要件

日韓租税条約第10条第2項を適用するにあたり、「利潤配分が発生した会計期間」を「配当金の決議日が属する会計期間の当該事業年度」と解釈した租税審判院の決定例(租審2017中0589、2017.4.24.;租審2017中0622、2017.5.10.)を紹介します。

上記の決定例によりますと、例えば、12月決算法人である韓国子会社の株式を日本親会社が100%所有している場合、2016年12月期に対する配当金の決議を2017年3月に実施し、4月に配当金を支払う場合、配当金の送金時に、韓国子会社は日韓租税条約第10条第2項(a)による軽減税率の5%を適用して源泉徴収します。しかし、その後、経営上の理由により、日本親会社が2017年11月に韓国子会社の株式を一部売却し持分率が25%未満になる場合、日韓租税条約第10条第2項(b)による軽減税率15%を適用して修正申告をしなければなりません。逆に、当初配当金の送金時には持分率が25%未満で15%の軽減税率を適用したが、12月以前に株式を追加取得し持分率が25%以上になる場合は、5%の軽減税率の適用を受けるための更正請求ができます。

 

1.関連法令:日韓租税条約第10条第2

日韓租税条約の正本は英文となっているため、英文と国文(韓国語)が相違する場合は、英文を優先しなければなりません。日韓租税条約第10条第2項の英文は、以下の通りです。

2. However, such dividends may also be taxed in the Contracting State of which the company paying the dividends is a resident and according to the laws of that Contracting State, but if the beneficial owner of the dividends is a resident of the other Contracting State, the tax so charged shall not exceed:

(a) 5 per cent of the gross amount of the dividends if the beneficial owner is a company which owns at least 25 per cent of the voting shares issued by the company paying the dividends during the period of six months immediately before the end of the accounting period for which the distribution of profits takes place;

(b) 15 per cent of the gross amount of the dividends in all other cases.

 

2.租税審判院の解釈

上記の決定例で、租税審判院(納税者の権利救済のため課税当局より独立された機関)は、以下のような理由により、上記の日韓租税条約第10条第2項(a)の下線が引かれている部分を、「配当金の決議日が属する会計期間の当該事業年度」を意味すると解釈しました。即ち、納税者の審判請求を棄却し、課税当局の課税に誤りはないと決定しました。

(1)   日韓租税条約第10条第2項(a)に規定された「利潤配分が発生した会計期間」での「利潤配分の発生」は配当決議であるため、利潤配分が発生した会計期間は配当決議日が属する事業年度であり、その事業年度終了日以前の6ヶ月間は、当該法人の発行株式の25%以上を保有しなければ5%の軽減税率の適用対象になれないこと

(2)   企画財政部では、日韓租税条約による配当に対する軽減税率適用時に「利潤配分が発生した会計期間」を「配当決議日が属する会計期間当該事業年度」と解釈していること

(3)   配当当時は低い軽減税率の条件を充たさなくても、配当決議日が属する当該事業年度終了直前6ヶ月間は、その条件を充たすべきことを明示したこととみられること

(4)   15%の税率を適用して当該事業年度終了直前6ヶ月間その条件を充たした場合、5%税率で還付できること

 

3.上記の解釈と日本課税当局の解釈との差異

上記のように解釈する場合、即ち、「配当金の決議日が属する会計期間の当該事業年度」の末日より6ヶ月間の持分率により軽減税率を適用するのであれば、配当金を支払った後に株式の譲受渡等により持分率が変動する場合、既に納付した源泉徴収税率が事後の事件により変動する状況が発生します。一方、日本国税庁の質疑応答事例(http://www.nta.go.jp/shiraberu/ zeiho-kaishaku/shitsugi/gensen/06/02.htm)では、親子会社間配当の所有期間要件は、それぞれの配当別に判定するため、事業年度中に保有要件を充たさなくなったり、或いは充たすことになったとしても、既に行われた配当に対する課税関係には影響がないと解釈しています。

なお、日韓租税条約第10条第2項は、1990年代に日本が他国(ルクセンブルグ(1992)、ノルウェイ(1992)、イスラエル(1993)、シンガポール(1994)、マレーシア(1999)及びカナダ(1999))と締結した租税条約の条文と同一のもので、これら租税条約の和文では、‘the accounting period for which the distribution of profits takes place’を「利得の分配に係る事業年度」と解釈しています。即ち、和文では、「配当金計算の対象となる会計年度」を基準にしています。

 

- 以上 -