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会計税務ニュース

【韓国の会計・税務レポート】配当所得に対する軽減税率の適用要件と関連する第1審裁判所の判決

昨年7月には、配当所得の軽減税率を規定している日韓租税条​​約第10条第2項を適用する場合において、「利益配分が発生した会計期間」を「配当金の決議が属する会計期間の当該事業年度」と解釈した租税審判院の決定例(租審2017中0589、2017.4.24; 租審2017中0622、2017.5.10)の主な内容を紹介しました。

上記の決定例によりますと、例えば、決算期が12月となる韓国法人の株式を日本法人が30%所有している場合に、2013年12月期の配当の決議を2014年3月に実施して4月に配当をする場合、韓国法人は、配当金の送金時に日韓租税条​​約第10条第2項(a)に基づく軽減税率5%で源泉徴収します。しかし、その後、経営上の理由から日本法人が2014年12月に韓国法人の株式をすべて売却して持ち株比率が0%になった場合は、日韓租税条​​約第10条第2項(b)に基づく軽減税率15%を適用して修正申告をしなければなりません。逆に、当初の配当の送金時には持ち株比率が25%未満であり、15%の軽減税率を適用したが、7月以前に株式を追加取得して持分率が25%以上になった場合は、5%の軽減税率の適用を受けるための更正の請求が可能です。

この後、納税者は租税審判院の決定が不服として行政訴訟を提起(国税の場合、訴訟前審手順として、国税庁の審査請求、租税審判院の審判請求、監査院の審査請求のいずれかを選択し、これを経た場合にのみ行政訴訟を提起することができます)し、第1審裁判所では、租税審判院の決定とは異なる判断をして納税者が勝訴しました。一方、第1審裁判所の判決を課税当局が不服とし、第2審裁判所に控訴を提起した状態です。

以下では、第1審裁判所の判決(江陵支院2017クハップ30307、2018.2.1)を紹介したいと思います。

 

1.争点規定:日韓租税条​​約第10条第2項

日韓租税条​​約は、英語が正本であるので、英文と韓国語文が異なる場合には、英語が優先されます。日韓租税条​​約第10条第2項の英文は以下の通りです。争点となるフレーズを下線で表示しました。

 

2. However, such dividends may also be taxed in the Contracting State of which the company paying the dividends is a resident and according to the laws of that Contracting State, but if the beneficial owner of the dividends is a resident of the other Contracting State, the tax so charged shall not exceed:

(a) 5 per cent of the gross amount of the dividends if the beneficial owner is a company which owns at least 25 per cent of the voting shares issued by the company paying the dividends during the period of six months immediately before the end of the accounting period for which the distribution of profits takes place;

(b) 15 per cent of the gross amount of the dividends in all other cases.

 

2. 第1審裁判所の判断とその根拠

第1審裁判所では、上記の争点となっているフレーズについて、「利益配分の対象となる会計期間の終了時点」を意味するものとみなすことが妥当であると判断しました。したがって、上記の例では、日本法人が(配当決議があった2014年ではなく)利益配分の対象となった会計期間である2013年12月期の終了直前の6ヶ月間は25%以上の株式を所有していたため、5%の軽減税率の適用が妥当であるということです。その判断の根拠は以下の通りです。

 

1)    日韓租税条約第10条第2項(a)の要件部分(if以下の部分)は、関係詞を使用した文

章として、これを二つの文章に分けてみると、以下の通りである。

①   The beneficial owner is a company which owns at least 25 per cent of the voting shares during the period of six months immediately before the end of the accounting period.

②   The distribution of profits takes place for the accounting period.

ここで「for」の意味をどのように解釈するかに応じて、「the accounting period」がどの会計期間を指しているのか、その結論が違ってくる。前置詞「for」の通常の用例は、「〜のための」ないし「〜に対する」と見ることができるので、上記②番フレーズは、「利益配分は、会計期間のために発生する」ないし「利益配分は、会計期間に対して発生する」と解釈される。したがって、ここでいう会計期間とは、最終的に利益配分が「対象とする」または「目的とする」会計期間を意味する。

 

2)利益配当は、原則として株主総会の決議とするが、そのような決議の前提となる財務諸表は、決議がなされた日が属する会計期間ではなく、その直前の会計期間のものである。利益配当をするとなると、その利益配当は、その配当決議が属する会計期間ではなく、その直前の会計期間の財務状態に従うこと、つまり、その直前の会計期間に対するものである。これらの利益配当の構造に照らしてみると、上記の例から、利益配当の対象となった会計期間とは、結局は2013年を意味するものであり、このような解釈が法文の持つ通常の意味とも符合する。

 

3)日韓租税条​​約第10条第2項の趣旨は、配当所得に対する居住地国課税及び源泉地国課税をすべて許容するが、ただし二重課税を最小化し、国際投資を促進するために軽減税率の範囲内でのみ源泉地国課税を認めており、特に配当の収益的所有者が、配当を行う法人が発行した議決権のある株式を25%以上保有している法人である場合には、そのような必要性が高いとみて、一般的な場合よりも低い税率、すなわち5%の軽減税率が適用されるようにしている。また、上記の規定が5%の軽減税率の適用を受けるための要件として、25%以上の株式を6ヶ月以上所有するようにした趣旨は、低い軽減税率が適用されるために配当基準日の直前に持ち株比率を一時的に高める流用行為を防止するためと見ることができるところ、このような上記の規定の趣旨に照らしてみても、上記の規定は、配当金の支払い「前」に、一定の期間25%以上の持分率の維持を前提条件として定義したことと理解することができる。

 

4)争点のフレーズを課税当局の主張のように解釈すれば、配当を受ける株主を定める基準日と、日韓租税条​​約の軽減税率を定めるために株式比率維持要件の充足の有無を判断する基準日が分離されるため、配当所得が支給されて源泉徴収義務が成立した時点では、最終的に適用される源泉徴収税率を確定することができなくなる。これは、すぐに源泉徴収義務者が、場合によっては追加の源泉徴収をしたり、更正請求をして過多納付した法人税の還付を受けて株主に返さなければならないことを意味し、課税当局の立場からも、既に納付された法人税に関連して事後的に追加徴収または還付の必要があるかどうかを調べなければならないという負担を負うようになる。条約締結時にこのような面倒な軽減税率の適用プロセスを意図したと見るのは難しい。

 

5)日韓租税条​​約の日本語訳は、争点のフレーズを「利得の分配に係る事業年度の終了の日」と翻訳しているが、これは「利得の分配に関連(関係)する事業年度の終了日」と解釈される。これらの日本語訳の記載に照らしてみても、争点のフレーズは「利益配分が発生した会計期間」ではなく「利益配分の対象となる会計期間」の終了時点を意味するものと解釈するのが妥当である。