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【韓国の会計・税務レポート】特許権の使用料に対する源泉徴収と実質帰属者の判定

内国法人がアメリカの特許専門管理会社であるIntellectual Ventures Management(以下、「IV」と言う)に支払った特許権の使用料に対して法人税が賦課された訴訟で、韓国の大法院(日本の最高裁判所に該当)は、原告(内国法人)の一部勝訴と判決した原審を確定しました。今回の訴訟の争点は、韓国内に登録されていない特許権の使用料に対する法人税の課税可否及び使用料所得の実質帰属者に対する判定でした。以下では、同訴訟の内容等を紹介します。

 

1.事件の概要

内国法人は、IVが保有している3,281個の特許権に対する使用料として約3.7億ドルを支払うこととし、IVがアイルランドに設立した子会社(以下、「IV IL」と言う)と契約を締結しました。韓国-アメリカ租税条約による使用料に対する源泉徴収税率は16.5%ですが、韓国-アイルランド租税条約によれば使用料に対する源泉徴収は免除されることから、IVがIV ILを契約当事者として立たせたものと考えられます。これに対し、課税当局は、“IV ILは、租税回避のため設立された会社に過ぎないため、韓国-アイルランド租税条約は適用することができない”と判断し、法人税及び加算税として約706億ウォンを賦課しました。

 

2.大法院の判断

第2審法院では、“内国法人が支払うこととした使用料が3.7億ドルの巨額であることから考えると、IVが直接契約せず、設立されたばかりのIV ILを通じて契約を締結したことは、租税回避以外の理由であるとは説明し難く、また、IV ILが内国法人から使用料を受取った後に99.9%をIVに送金した事実を考えると、IV ILは、租税回避のための会社であるものと判断される”とした。ただし、“IVが保有している特許の中で、韓国内に登録されている特許権の使用料に対してのみ法人税を賦課するのが妥当である”とし、争点金額のうち、約15億ウォンのみ正当であると判示しました。大法院でも原審判断は正当であると判示しました。

特許権の属地主義の原則上、特許実施に対する権利は、その特許権が登録されている国の領域内にのみ効力が及ぶため、韓国内に登録されていない特許権に対して支払われた所得は、韓国内源泉所得に該当しないとの従来の大法院の判断が維持されたことであると判断されます(大法院2014.12.11.宣告2013ヅ9670;大法院2014.11.27.宣告2012ヅ18356;大法院2014.10.30.宣告2014ヅ9554)。

しかし、今回の大法院の判決は、内国法人が、アメリカに親会社をおいているアイルランドの特許子会社と締結した特許使用契約で、韓国-アイルランド租税条約を適用せず、韓国-アメリカ租税条約により法人税を賦課したことに意義があります。グローバル特許企業が租税回避のため世界各国に子会社を乱立させることを防止するための国際社会の動きと一致する趣旨の判決であると言えます。

実質帰属者の判定と関連し、大法院は課税当局の主張をほとんど認定しており、今回の判決も課税当局の判断と一致します。但し、過去の幾つかの事例では、課税当局の判断を認定していませんでした。そのような事例もご紹介します。

 

3.実質帰属者の判定において、納税者の主張を認定した大法院の判決

外国法人が利子・配当・使用料のような投資所得を受取るか、或いは韓国内不動産に投資を行う場合、韓国と締結した租税条約を検討し、租税条約の特典を利用できる取引構造を組んだりします(Treaty Shopping)。また、韓国への投資のための法人を設立するに当たって、投資リスクを分散させるか、或いは金融、又は租税負担を減少させるため、有限パートナーシップ、又は国外持主会社を設立する事例も多くありました。このような様々な形態の投資について、韓国の課税当局は国税基本法の実質課税原則を適用して、中間に設立された有限パートナーシップ、又は国外持主会社が当該所得の実質帰属者に該当せず、最終、又は上位の投資者を実質帰属者とみなして課税する立場をとっていました。その結果、多くの訴訟に繋がりましたが、納税者の主張は、租税条約を適用する事例で国内税法上の実質課税原則を厳格に適用して、最終、又は上位の投資者を当該所得の実質帰属者と認定することは不当であるとのことでした。しかし、ローンスターファンド事件に対する判決(大法院2012.01.27.宣告2010ヅ5950)をはじめ、大法院の判例では課税当局の主張を一貫して認定していました。

一方、韓国への投資のための法人の設立経緯、人的・物的設備の構成と事業活動内訳、株式の取得と関連した意思決定過程、取得資金の原泉、株主活動の経過等を総合的に判断して、最終、又は上位の投資者ではなく、韓国への投資のための法人が実質帰属者に該当するとの大法院の判決が出されています(大法院2014.07.10.宣告2012ヅ16466;大法院2016.07.14.宣告2015ヅ2451;大法院2018.11.15.宣告2017ヅ33008)。

大法院2014.07.10.宣告2012ヅ16466判決は、株式譲渡所得の実質帰属者に対する事件です。フランスに最上位持主会社をおいているグループが、オランダに法人を設立した後、同オランダ法人を通して韓国に投資し、以降韓国法人の株式を譲渡しました。韓国-オランダ租税条約によると、株式の譲渡所得は、譲渡人の居住地国であるオランダで課税されるが、韓国の課税当局では、オランダ法人をペーパーカンパニーに過ぎないと判断し、韓国-フランス租税条約により課税しました。しかし、大法院では、オランダ法人を実質帰属者に該当すると判示しました。

2016年の判決(大法院2016.07.14.宣告2015ヅ2451)は、配当所得の実質帰属者に対する事件です。最終親会社はフランスにあり、同フランス法人がイギリスに法人を設立し、イギリス法人が韓国に投資しました。以降韓国法人は、配当支払時に、韓国-イギリス租税条約により5%の源泉徴収税率を適用したが、韓国の課税当局では、イギリス法人が中間持主会社に過ぎないと判断し、韓国-フランス租税条約上の源泉徴収税率15%により課税しました。しかし、大法院では、課税当局の判断を否認し、イギリス法人を実質帰属者と判示しました。

最後に、大法院2018.11.15.宣告2017ヅ33008の判決は、使用料所得の実質帰属者に対する事件です。韓国法人より使用料所得を受取っていたオランダ法人が、韓国-ハンガリー租税条約により源泉税が免除されるハンガリーに人的・物的施設を備えた子会社を設立しました。使用料所得をハンガリー法人が受取る場合、当該ハンガリー法人を使用料所得の実質帰属者とみなすことができるかどうかの可否について、大法院はハンガリー法人を実質帰属者であると判断しました。

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