- 2020年10月17日
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【韓国の会計・税務レポート】個人類似法人の留保金に対する所得税課税
2020年8月の当レポートに記載した「2020年税法改正案の発表」で、個人類似法人の超過留保所得を配当とみなして配当所得税を課税するとの改正案を簡単に紹介しました。同改正案の発表後、個人類似法人の超過留保所得に対する課税は、中小企業の成長を阻害し、税負担のみ増加させるため、その導入を撤回しなければならないとの意見が出ています。
日本にも個人類似法人(同族会社)に対する追加課税制度がありますが、日本の制度は、各株主にみなし配当税を賦課する方式ではなく、留保金に対し法人税を追加で課税するもので、その点が韓国の制度と異なります。
以下では、今回の改正案の趣旨と主要内容をより詳細に紹介し、改正案の問題点等について探ってみます。
1.趣旨
個人事業者に対する所得税の負担を回避するために法人を設立しましたが、実際は個人事業者の形で運営している事例があります。所得税の最高税率は46.2%(課税標準5億ウォン超過分、地方所得税率込み)ですが、法人税の税率は、2億ウォン超過~200億ウォン以下の課税標準では22%(地方所得税率込み)に過ぎません。このように、所得税率と法人税率の差があることにより個人事業者から法人に転換する事例もありますが、法人を設立して不動産投機や家族への変法贈与に利用している事例も出始めています。
法人設立や法人転換による所得税等の回避を防止するため、法人を設立して留保金を貯めている企業の超過留保所得に対し所得税を課税することが、今回の改正案の趣旨です。
2.内容
区分 |
内容 |
適用対象 |
最大株主と親族等特殊関係者が保有している持分が80%以上の個人類似法人(家族企業)で、主に中小企業が該当 |
課税方式 |
個人類似法人が適正留保金を超過して貯めていた(超過留保所得)を配当とみなし、株主がみなし配当金の持分率に比例して配当を受けたとみて所得税を課税 |
みなし配当金の計算 |
超過留保所得(=留保所得*-適正留保所得**)
*留保所得=各事業年度所得金額+過誤納還付金利子等-繰越欠損金等 **適正留保所得=MAX[(留保所得+剰余金処分による配当)×50%、資本金×10%] |
株主に対する税金 |
みなし配当金額×株主持分率×15.4%*(源泉徴収税率)
*株主の金融所得が2千万ウォンを超過する場合は総合所得税率を適用 |
重複課税の調整 |
今後、みなし配当金を株主に実際に配当する場合、配当所得とみなされない。 |
適用時期 |
2021年1月1日以降開始する事業年度分から適用 |
3.問題点
(1) 中小企業の実態を考慮しない
中小企業中央会の実態調査(2020年8月)によりますと、2019年基準で個人類似法人の要件に該当する会社は、調査対象中小企業300社のうち49.3%(148社)に達し、適正留保所得を超過する企業は9.3%(28社)でした。報告書には、2019年基準約787,000社の法人税申告法人のうち、中小企業が89.3%(704,000社)を占める状況を踏まえますと、個人類似法人は約350,000社[1]、適正留保所得を超過する法人は約65,000社に達するものとみて、相当な税金が賦課されると予想しました。大部分の中小企業が家族が株主である個人類似法人に該当するとしたら、中小企業の現実を無視した改正案であるとの指摘を受けています。
(2) 画一的な適用
最大の問題点は超過留保所得の算定と関連したものです。改正案は、当期純利益(留保所得+剰余金処分による配当)の50%、又は資本金の10%のうち大きい金額を適正留保所得とみて、これを超過する留保金に対して課税することですが、社内留保金のうち、有形固定資産や棚卸資産等に再投資することにより留保金を現金で保有していなくても課税されるのであれば、企業の投資や成長を阻害する可能性もあり得ます。一部業種の場合、やむを得ず留保金を貯めておく必要がある場合があるため、適用除外対象に対する明確な基準が提示されなければなりません。さらに、みなし配当とみなして課税された後に継続して損失が発生しますと、実際に配当が行われないため、未実現所得に対して所得税が課税されるという問題が発生する可能性があります。
4.政府の立場
これに対し政府は、今回の改正案は経済的実質が個人事業者と類似し、所得税負担回避が大きい法人に限って適用するための制度で、施行令改正を通して企業規模等に関係なく生産的・合理的事業を営んでいる法人は適用対象から除外する予定であることを、報道資料を通じて明らかにしました。また、これまでに累積された社内留保金に対しては適用せず、法施行以降に発生する留保所得から適用する予定であるとの立場です。
- 以上 -
[1] 日本の場合も、殆どの法人が同族会社で、資本金が少ない会社が圧倒的に多いです。日本国税庁の平成30年度分会社標本調査結果によりますと、全体法人数2,723,542社のうち、特定同族会社を含めた同族会社数は2,628,887社であり、同族会社の大部分(2,290,231社)が資本金1,000万円以下の会社でした。