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【韓国の会計・税務レポート】サムスングループ会長の相続税に係わる議論

韓国の代表グループであるサムスンの李健煕会長が、去る10月25日にお亡くなりになりました。故人の死亡以降、相続人が負担することになる莫大な相続税に関心が集まっています。故人が生前に保有していた上場株式の評価額に相続税率を乗算して推算した相続税は、約11兆ウォンに達すると予想され、その規模は韓国の相続贈与税の1年税入予算より多くなるためです。更に、故人の死亡による莫大な相続税が妥当であるのかに対する議論も続いています。

 

以下では、故人の死亡に関連する予想相続税と莫大な相続税を巡った議論を紹介します。

 

故人は、サムスン電子をはじめ、サムスングループを代表するサムスン生命、サムスン物産、サムスンSDSの上場株式を保有していたが、その価値は10月23日終値基準で約18兆2,000億ウォンに達すると知られています。故人が最大株主の場合は株式評価額に20%が割増され、相続財産が30億ウォンを超過すると超過分に対しては相続税の最高税率である50%の税率が適用されるため、相続税は約11兆ウォンに達すると推定されます[1]。但し、株式評価額は、故人の死亡前後各2か月総4か月の終値を平均して算出するため、実際の相続税は株価の流れにより異なる可能性があります。

 

ある研究機関の報告書によると、故人が所有していた約18兆2,000億ウォンの上場株式を相続人に相続する場合の相続税をOECD主要国と比較してみた結果、韓国の相続税実効税率が58.2%と最も高く、日本(55%)、アメリカ(39.9%)、ドイツ(30%)、イギリス(20%)の順番でした。同報告書は、企業承継が単なる富の相続ではなく、企業の存続及び雇用維持を通じて国家経済の成長に寄与できる手段であることを看過しないといけないと主張しながら、長期的には相続税を廃止し、租税衡平を維持できる資本利得税の導入が行われなければならないと主張しました。また、OECD会員国間の所得税と相続税の最高税率合計を比較すると、韓国は日本(100%)に続いて2位(92%)に該当し、最大株主に対する割増評価を適用すると102%で、OECD会員国の中で所得税及び相続税の負担が最も大きいとの分析も提示しました。

 

一方、韓国の最高相続税率は50%で、フランス(45%)、アメリカ(40%)、イギリス(40%)等より高いことは事実ですが、名目上の最高税率のみを単純に比較することは現実に合わないとの指摘があります。即ち、各種控除恩恵のため、名目税率と実効税率間の乖離が大きいとのことです。相続税の控除恩恵としましては、ⅰ)基礎控除・人的控除と一括控除(5億ウォン)のうち大きい金額、ⅱ)配偶者控除、ⅲ)稼業・営農相続控除、ⅳ)金融財産相続控除、ⅴ)災害損失控除、ⅵ)同居住宅相続控除等の各種控除制度が備えられているため、実際に相続税を納付すべき対象は非常に制限的であります。よって、相続人の平均的な実効税率は直近5年間14.2%水準で、高い水準ではないとの主張です。

 

韓国の国税庁「2018国税統計年報」によりますと、実際に2017年基準で財産の相続を受けた者(22万9,826名)の3%(6,986名)のみに相続税が課税されました。課税対象者は1人当たり平均23億6,000万ウォンの遺産があり、このうち14.7%(3億4,800万ウォン)が相続税として納付されたようです。

 

なお、所得税との関係も考慮しなければならないとの指摘があります。OECD資料によりますと、イギリスの最高相続税率は40%ですが、所得税最高税率は45%で韓国(42%)より高いです。アメリカの場合も、最高相続税率は40%で韓国よりは低いですが、所得税最高税率は州税(state tax)を含め最高46.3%となっており、日本の最高相続税率は55%で韓国より高く、所得税最高税率も45%で高い水準となっております。

 

相続財産に対する各種控除や国別課税方式が異なるため、国別相続税率の単純比較を根拠に‘韓国の相続税は過度である’と主張することは妥当ではないと考えられます。相続税率を引下げれば企業承継は容易になるものの、社会階層間の移動をより混乱にし、長期的にはむしろ経済の活力を落とす可能性があります。相続税の最高税率区間に含まれている人員が全体相続人の極少数に過ぎないため、相続税率の引き下げや相続税を廃止しなければならないとの主張は、現実性に欠けた主張ではないかと考えられます。

 

 

- 以上 -

 


[1] 韓国は遺産課税方式(被相続人の財産に対し課税する方式)を、日本は遺産取得税方式(各相続人が取得する財産に対し課税する方式)を採択していることが、韓国と日本の相続税の大きな差異であると考えられます。

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