- 2012年4月12日
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退職給付制度と関連した会計及び税務(2)
韓国では退職勤労者に対する退職金支払いに備え、「一般退職金制度」及び「退職年金制度」のいずれか1つ以上の制度を設定することとされています。
今回は、韓国の退職年金制度の概要、会計及び税務について説明します。
1. 退職年金制度
(1) 概要
退職年金制度の設定とは、下記の機関が取扱う退職年金に加入することを言います。当該退職年金は役職員の退職を退職給付の支払事由として定めており、役職員を受給者として設定しています。
ㆍ保険業法による保険会社
ㆍ資本市場と金融投資業に関わる法律による信託業者・集合投資業者・投資売買業者、又は投資仲介業者
ㆍ銀行法による銀行
ㆍ産業災害報償保険法による勤労福祉公団
(2) 退職年金制度の類型
退職年金は、確定給付型退職年金(Defined Benefit,以下“DB型”)と確定拠出型退職年金(Defined Contribution、以下“DC型”)とに区分されます。詳細は以下の通りです。
区分 | 確定給付型退職年金
(Defined Benefit)
|
確定拠出型退職年金
(Defined Contribution)
|
概念 | 勤労者の年金給付が事前に確定しており、
事業主の積立負担が積立金運用結果により変動する形態 |
事業主の負担金が事前に確定しており、
勤労者の年金給付が積立金運用結果により変動する形態 |
会社の掛金 | 運用収益率、昇給率等により変動 | 確定 |
勤労者の
退職金受給額
|
確定 | 運用実績にり変動 |
運用責任 | 会社帰属 | 個別勤労者帰属 |
リスク負担者 | 物価、利息率変動等の
リスクが会社に帰属 |
物価、利息率変動の
リスクが勤労者に帰属
|
(3) 退職年金類型別法定積立金
① DB型
DB型に加入する場合、会社は給付の支払能力を確保するため、毎事業年度末を基準にして以下のAとBのうち、いずれか大きい金額以上を積立てなければなりません(勤労者退職給与保障法第16条)。
A. [毎事業年度末現在において給付に必要とされる費用予想額の現在価値 - (将来勤務期間分に対して発生する給付支払のための掛金による収入予想額の現在価値 + 過去勤務期間分に対する給付支払のための掛金による収入予想額の現在価値)] × 60%
B. 当期末退職給付推定額 × 60%
② DC型
DC型に加入する場合、加入勤労者の年間賃金総額の12分の1以上に相当する掛金を毎年現金で拠出しなければなりません(勤労者退職給与保障法第20条)。
2.確定給付型退職年金の会計及び税務
(1) 会計処理
① 国際会計基準(IFRS)
IFRSによりますと、DB型の会計処理は数理計算を用い、財務諸表に表示される金額は以下の通りです。
退職給付引当金 = 報告期間末現在における確定給付債務の現在価値 – 報告期間末現在における社外積立資産の公正価値 ± 未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務債務
退職給与 = 勤務費用 + 利息費用 – 社外積立資産期待運用収益 ± 数理計算上の差異償却額 + 過去勤務債務償却額 ± 縮小や終了の効果等
② 企業会計基準(K-GAAP)
K-GAAPでは、報告期間末現在に従業員が退職する場合に支払うべき退職一時金に相当する金額を退職給付引当金とし、DB型で運用する資産は企業が直接保有するものとみなして「退職年金運用資産」として退職給付引当金から直接控除して表示することにしています。また、退職年金運用資産から得られる運用収益は、会社の営業外収益に計上します。
従って、期末現在における貸借対照表では下記の通りに表示されます。
退職給付引当金 | XXX | |
退職年金運用資産 | (XXX) | XXX |
(2) 法人税法上の損金算入限度額
① 退職給付引当金損金算入限度額
帳簿上計上している退職給付引当金についての損金算入限度額は以下の通りです(一般退職金制度を設定している企業と同様)。
退職給付引当金に対する損金算入限度額
損金算入限度額 = 退職給与の支払対象となる役職員に対して、当該事業年度に支払った総給与額 × 5%
累積限度額 = 事業年度末の退職給付推定額 × 一定比率(注)
(注) 退職給付引当金の積立限度比率
事業年度 | 比率 |
2010年中に開始する事業年度 | 30% |
2011年中に開始する事業年度 | 25% |
2012年中に開始する事業年度 | 20% |
2013年中に開始する事業年度 | 15% |
2014年中に開始する事業年度 | 10% |
2015年中に開始する事業年度 | 5% |
2016年中に開始する事業年度から | 0% |
② 退職年金運用資産の損金算入
DB型に拠出した掛金は、会計上では費用と認めず負債の控除勘定で処理することとしているため、当該掛金は下記の損金算入限度額の範囲内で税務調整により損金に算入します。
DB型の損金算入限度額:下記AとBのうちいずれか小さい金額
A. 推定額基準 = 当期末現在の退職給付推定額 - 当期末現在の税務上退職給与引当金 - 既に損金算入した掛金
B. 預け金基準 = 期末退職年金預け金の残高 - 既に損金算入した掛金
③ 退職金支払時の税務上損金限度
使用者に対する支払退職金については税務上損金限度がないが、役員に対する支払退職金については税務上損金限度が設定されています。即ち、法人が役員に支払った退職給付のうち、下記の何れかに該当する金額を超過する金額は損金不算入となります。
A. 定款に退職給付として支払う金額が定められた場合:定款に定められた金額
B. 定款に規定がない場合:退職日より遡及して1年間に当該役員に支払った総給与額 × 10% × 勤続年数
(3) 所得税法
DB型退職年金受給時における所得税申告納付は、勤労者の退職年金受給方法により以下の通りになります。
① 一時金を選択する場合
会社が退職所得として源泉徴収し、所得税を納付します。
② 年金を選択した場合
年金受給時にDB事業者が年金所得として源泉徴収し、所得税を納付します。
(4) 確定拠出型退職年金の会計及び税務
① 会計処理
DC型を設定した場合、当該会計期間に会社が拠出した掛金は、退職年金運用資産、退職給付引当金等と認識せず、退職給与(費用)と認識します。
② 法人税法
法人税法上も当該退職給付は損金に該当するため、当該事業年度にDC型退職年金の掛金が拠出されており、同額が会計上費用として処理された場合には別途の税務調整は発生しません。
但し、役員に対する会社負担額については税務上限度額があるため、役員の退職時までに会社が負担した掛金の合計額を退職給与とみなして、役員の退職給与損金限度規定を適用し、限度超過額は損金不算と入します。
③ 所得税法
DC型の場合、勤労者の退職年金受給方法とは関係なく、源泉徴収義務者はDC年金事業者です。但し、一時金を選択した場合には退職所得として、年金を選択した場合には年金所得として源泉徴収します。