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【韓国の会計・税務レポート】Jリーグで活動した韓国国籍サッカー選手の居住地国に対する判定

今まで、外国で主に生活していたにもかかわらず、国内に家族及び財産があるという理由により、恒久的住居と利害関係の中心地が韓国にある、韓国の居住者と判断され、所得税が課税された事例が相当ありました。しかし、最近の最高裁判所の判決(2019.03.14.宣告 2018ヅ60847)では、国内に家族及び財産があるにもかかわらず、人的及び経済的利害関係の中心地が日本にあるとみなされ、日本の居住者と判断されました。以下では、同判決の内容を紹介します。

 

1.思案の概要

(1)    韓国国籍のC選手は、高校卒業直後の2007年から2014年までJリーグで活動しました。特に、2012年から2014年までは殆どの時間を日本で過ごしました。

(2)    同期間に、日本サッカー球団はC選手及びC選手の家族に、日本での住居及び乗用車等生活に必要な物品を提供しました。C選手は、ほとんどの時間を日本で過ごし、球団から提供された日本の住居に住み、C選手の両親は、同期間に毎年53~129日を日本の住居で生活しました。C選手が韓国で滞留した期間は年平均28日で、国家代表選手選抜による一時滞留でした。

(3)    C選手は、国内にマンション及び預金を所有しており、同マンションを住民登録地としており、C選手の両親及び姉達が同マンションに居住しました

(4)    管轄税務署は、C選手が韓国の居住者であると判断し、日本サッカー球団から受けた年俸に対し総合所得税を賦課し、日本で納税した税額は外国納付税額として控除しました。

 

2.思案の争点

上記のような事実関係で、2014年にC選手が韓国と日本のうち、どの国の居住者に該当するかが争点になった事例でした。

 

3.第1審及び第2審裁判所の判決

(1)  第1審裁判所の判決

第1審は、C選手は1年以上日本での居住が必要である職業をもっていたため、密接な生活関係の中心地は日本になり、韓国の所得税法上居住者ではないため、韓国内源泉所得に対してのみ韓国で納税義務を負担すれば問題はないと判決しました。

(2)  第2審裁判所の判決

しかし、第2審では、C選手が韓国の居住者に該当すると判断しました。即ち、C選手の家族及び財産関係を考慮すると、C選手は韓国にマンションを所有している一方、日本では所属球団が提供した住居に滞留するのみであったため、韓国に密接な生活関係を維持しているとみなせると判断しました。C選手は韓国の居住者に該当し、管轄税務署の賦課処分は適法であったと判決しました。

 

4.最高裁判所の判断

最高裁判所は、まず、国内に家族がおり、不動産を所有していることを根拠に、韓国の所得税法によりC選手が韓国の居住者とみなされる余地があると判断しました。その判断の根拠は、以下の通りです。

[国内に住所を有しているとみなす要件である‘国内に生計を共にする家族’とは、韓国で生活資金や住居場所等を共にする身近な親族を意味し、‘職業及び資産状態に照らし継続して1年以上国内に居住するものと認められる場合’とは、居住者を所得税納税義務者とする趣旨に照らしてみるとき、1年以上韓国で居住を必要とする程度の職場関係、又は勤務関係等が維持されているものとみることができるか、或いは1年以上韓国に滞留しながら、資産の管理・処分等をしなければならないとみることができる場合のように、場所的関連性が韓国と密接した場合を意味する。][1]

しかし、最高裁判所では、C選手が韓国の所得税法上の居住者にも該当するが、日本でも職業を保有しているため、日韓租税条約により居住地国を判断し、結論的に日本の居住者であると判決しました。その根拠は、以下の通りです。

[日韓租税条約により、日本と韓国の両国に全て恒久的住居の所在地がある場合は、重大な利害関係の中心地により最終居住地国を判断しなければならない。日韓租税条約第4条第2項では、ある個人が両締約国の居住者になる場合、①恒久的住居(permanent home)、②重大な利害関係の中心地(centre of vital interests)、③日常的居所(habitual abode)、④国籍(nationality)の基準を順次的に適用して、どの締約国の居住者にするかを定めている。]

 

[1] OECD国家のほとんどが居住者判定基準として滞留183日要件を採択していることを勘案し、2014年12月23日所得税法を改正しその要件を強化しました。183日要件とは、2015年1月1日以降に発生する所得分から適用されました。

 

[ここで、恒久的住居とは、個人が旅行、又は出張等のような短期滞留のために備えた場所ではなく、それ以外の目的で、長期間滞留するための住居場所として、いつでも継続使用できる全ての形態の住居を意味する。従って、個人がその住居を所有するか、或いは賃借する等の事情は、恒久的住居を判断するに考慮すべき事項ではない。このような恒久的住居が両締約国に全て存在する場合は、二重居住地国に対する以下の判断基準である重大な利害関係の中心地、即ち、両締約国のうち、その個人と人的及び経済的に最も密接に関連した締約国がどこであるかを調べなければならない。]

 

C選手は、韓国と日本の両国に恒久的住居をおいているが、人的及び経済的利害関係が最も密接に関連した締約国は、韓国ではなく日本であるため、日韓租税条約上日本の居住者とみなすことが妥当であると判決した事例です。

 

 

- 以上 -

 


 

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