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【韓国の会計・税務レポート】二重居住者判定関連の最近の判例

J-リーグと中国プロリーグで活動した韓国国籍のサッカー選手の居住地国判定関連の裁判所判決について、2019年4月と2020年1月のレポートでご紹介しました。裁判所は、Jリーグで活動したサッカー選手は日本の居住者に該当すると判断しましたが、中国プロリーグで活動した選手の場合は韓国の居住者に該当すると判断し、それぞれ異なる判断が下されたケースでした。

 

今回は、プロ選手ではない企業家の二重居住者判断が問題となった事件についてご紹介します。以下の事件は、ソウル行政裁判所(ソウル特別市を管轄する行政訴訟の第1審裁判所)がホームページに主要判決として掲載した判決(2021.03.26.宣告2019グハップ89555)です。

 

1.原告の主張

原告は、以下のとおり、韓国の所得税法上居住者に該当しない、韓国・インドネシアの租税条約によるインドネシア居住者に該当すると主張しました。

 

(1) 韓国の所得税法上の居住者に該当しないとの主張

 

原告は、インドネシア法人を引継いだ後に同法人の代表取締役として勤務し、大部分の期間をインドネシアで居住しており、韓国には治療を受けるためや家族に会うために一時的に滞在しただけである。従って、原告が2016年に国内に住所をおいているか、または183日以上居所をおいているとは認められないため、原告は所得税法上韓国の居住者に該当しない。

 

(2) 韓国・インドネシア租税条約上のインドネシア居住者に該当するとの主張

 

仮に、原告が所得税法上の韓国の居住者であったとしても、原告はインドネシア所得税法上インドネシアの居住者でもあり、韓国とインドネシアの二重居住者に該当する。原告の恒久的住居はインドネシアにあり、重大な利害関係の中心地もインドネシアであるため、この事件は租税条約で定めた二重居住者の判定基準によりインドネシア居住者に該当する。

 

 

2.裁判所の判断

 

(1) 韓国の所得税法上の居住者に該当しないとの主張に対する判断

 

1) 関連規定

 

所得税法第1条の2第1項では、居住者を「国内に住所をおいているか、或いは183日以上居所をおいている個人」と定義し、第2条第1項第1号では、居住者に所得税を納付する義務を負わせている。旧所得税法第1条の2第2項の委任を受けた所得税法施行令第2条第1項は、「所得税法第1条の2による住所は、国内で生計を共にする家族及び国内に所在する資産の有無等生活関係の客観的事実により判定する」と規定している。また、同条第3項では、「国内に居住する個人が以下の各号の1に該当する場合は国内に住所をおいているものとみなされる」と定め、第2号では、「国内に生計を共にする家族がおり、その職業及び資産状態に照らし、継続して183日以上国内に居住しているものと認められる時」と掲げている。所得税法施行令第2条第1項が国内に住所を有していると認める要件として掲げている「国内に生計を共にする家族」とは、韓国で生活資金や住居場所等を共にする近い親族を意味し、「職業及び資産状態に照らし、継続して183日以上国内に居住しているものと認められる時」とは、居住者を所得税納税義務者とする趣旨から鑑み、183日以上韓国での居住が要される職場関係、又は勤務関係等が維持されるものとみることができるか、或いは183日以上韓国に滞留しながら資産の管理・処分等をしなければならないとみることができる場合のように、場所的関連性が韓国と密接した場合を意味する。

 

2)  具体的判断

 

原告は、2016年度に国内で生計を共にする家族がおり、原告の家族が賃借した住宅、又は原告の配偶者が所有している住宅に家族と共に居住して生活しており、国内に相当の資産を保有している等国内に住所をおいているとみることが妥当であるため、韓国の所得税法上の居住者に該当する。

 

(2) 韓国・インドネシア租税条約上のインドネシア居住者に該当するとの主張に関する判断

 

1)  関連規定

 

ある個人が所得税法上の国内居住者であると同時に、外国の居住者にも該当してその外国法上所得税等の納税義務者に該当する場合は、ひとつの所得に対し二重課税される可能性がある。これを防止するため、各国間で租税条約を締結して別途の規定をおいている。納税義務者がこのような二重居住者に該当するとの事実が認められれば、その重複される国と締結した租税条約が定めるところにより、どの国の居住者にみなされるかを決定しなければならない。

 

これにより、この事件租税条約第4条は、第1項で「この協定の目的上、“一方締約国の居住者”とは、その締約国の法により同締約国で租税目的上居住者として取扱われる者を意味する」と規定し、第2項で「第1項の規定により個人が両締約国の居住者となる場合、その地位は以下の通りに決定される」と規定し、第1号で「同個人は、その者が利用できる恒久的住居をおいている締約国の居住者とみなされる。同個人が両締約国内でその者が利用できる恒久的住居をおいている場合、人的及び経済的関係がより密接な国の居住者とみなされる(重大な利害の中心地)」と規定している。第1号で決定できない場合に、第2号、第3号で段階的にこの事件租税条約上の居住者の地位を決定する基準を置いている。

 

ここでの恒久的住居とは、個人が旅行、又は出張等のような短期滞留のために備えた場所ではなく、それ以外の目的で継続的に滞在するための場所として、いつでも使用できる全ての形態の住居を意味するものであるため、その個人が住居を所有するか、或いは賃借する等の事情は恒久的住居を判断するのに考慮すべき事項ではない。このような恒久的住居が両締約国全てに存在する場合は、この事件租税条約上二重居住者の居住地国に対する判断基準である重大な利害関係の中心地、即ち、両締約国のうち、その個人と人的及び経済的により密接に関連している締約国はどこであるかを探るべきであり、これは、家族関係、社会関係、職業、政治・文化活動、事業場所、財産の管理場所等を総合的に考慮して両締約国のうち、その個人の関連性の程度がより深い締約国とする。

 

2)  具体的判断

 

インドネシア所得税法第2条第3項a号では、「納税義務者の居住者(Resident Taxpayer)」を①インドネシアに居住する個人、②12か月間183日を超過してインドネシアに滞留する個人、③インドネシアに居住する意思をもって特定課税年度中にインドネシアに居住した個人のうち何れかひとつと規定しており、同条第6項では、「居住(Residence)」に関しては実際の状況により課税官庁が定めることと規定している。

原告は、2016年は韓国とインドネシアの二重居住者に該当するため、この事件租税条約の二重居住者の居住地判定基準によりどの国の居住者にみなされるかをみると、原告は2016年に韓国とインドネシアの両国に恒久的住居をもっているが、原告と人的及び経済的により密接に関連した「重大な利害関係の中心地」は韓国であるため、この事件租税条約第4条第2項第1号により韓国の居住者とみなされる。

 

 

- 以上 -

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