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【韓国の会計・税務レポート】中国プロリーグで活動した韓国国籍サッカー選手の居住地国に対する判定

2019年4月のレポートに、日本Jリーグで活動した韓国国籍サッカー選手の居住地国判定に関する最高裁判所の判決(2019.3.14.宣告2018ヅ60847)を紹介しました。同判決で、最高裁判所は韓国内に家族や財産があることにも関わらず、人的・経済的利害関係の中心地が日本にあるとみて、当該選手は日本の居住者に該当すると判断しました。

 

しかし、このような最高裁判所の判決結果とは異なって、中国プロリーグで活動した韓国国籍サッカー選手が、中国ではなく韓国の居住者に該当すると、2019年11月10日にソウル行政裁判所(第1審)の判決がでました。判決文の全文が公開されていなかったため、事件の事実関係を具体的に紹介することはできませんが、上記の最高裁判所の判決での争点と同様に、韓国国籍サッカー選手の居住地国の判定に関することがその争点でした。

 

 

1.ソウル行政裁判所の判決

 

ソウル行政裁判所は、2016年に中国のプロリーグで年俸約33億ウォンを受けたサッカー選手A(以下、「A選手」と言う)に、総合所得税約9億ウォンを賦課した管轄税務署の決定は正当であると判決しました。

 

 

2.A選手の主張

 

(1) A選手は、2016年1月に中国プロチームへの入団契約のため出国した後、2018年2月までほとんどの時間を中国で生活したため、韓国の居住者に該当されず、韓中租税条約上の中国の居住者に該当すると主張しました。

 

(2) A選手は、たとえ、本人に韓国での所得税納税義務があるとしても、韓中租税条約により中国に継続居住する目的で入国したため、中国で発生した所得に対しては韓国で所得税を納付する義務がないとの主張もしました。実際にA選手は、2016年3月から中国に居住地を備え、中国の課税当局に約1.6億ウォンを所得税として納付しました。

 

 

 

3.ソウル行政裁判所の判断

 

(1) 2016年に韓国に生計を共にする家族がおり、その職業及び資産状態に照らしてみて、183日以上韓国内に居住することと認められるため、所得税法上韓国の居住者に該当すると判断しました。

 

(2) A選手の場合、その家族が2016年度のほとんどを韓国で居住しており、A選手とその配偶者が2016年のみに約2億ウォン程度を、保険料及びクレジットカード決済金額として支出した点等を照らしてみて、A選手を韓国の非居住者とみることは難しいと判断しました。

 

(3) 裁判所は、A選手が韓国と中国、両国の居住者と認められる余地がある点を認めました。この場合、重大な利害関係の中心地がどこであるかを判断して居住地国を決めるべきであるが、裁判所は、A選手の人的・経済的関係がより密接に関連した国は、中国ではなく韓国であると判断しました。

 

(4) 中国で得た所得の大部分を韓国に送金しており、A選手の選手活動全般に対する統制・監督の権限が中国チームに付与されている入団契約書を除いては、A選手が韓国にある家族と分離されたまま中国で独自的な生活を営んでいるとみられる事情が確認されない点を考慮して、A選手と関連性のより深い締約国は韓国であると判断しました。

 

 

4.示唆点

 

日韓租税条約と同様に、韓中租税条約でも以下の順番で居住地国を判断します。即ち、①恒久的住居(Permanent Home)、②重大な利害関係の中心地(Centre of Vital Interests)、③日常的居所(Habitual Abode)、④国籍(Nationality)の基準を順次的に適用し、それにもかかわらず、居住地国を判定できない場合は、当国間の相互合意(Mutual Agreement)により二重居住者の問題を解決します。

 

ここで、「恒久的住居」とは、個人が旅行、又は出張等のような短期滞留のため備えたことではなく、それ以外の目的で、継続留まるための住居場所で、いつでも継続使用できる全ての形態の住居を意味します。個人がその住居を所有するか、賃借する等の事情は恒久的住居を判断するに考慮すべき事項ではありません。

 

A選手が中国にも居住可能な住居地を保有していたが、本人の収入のみで配偶者と家族の大部分が韓国で居住したため、裁判所はA選手が依然として韓国で家族と共に居住する恒久的住居を形成していると判断しました。A選手本人が2016年に家族と離れて中国で滞留したことは、彼の事業目的上の一時な滞留だけで、中国に恒久に留まる意図を持っているとは判断し難いため、韓国の居住者に該当すると決定したこととみられます。

 

納税者のA選手だけでなく、家族も中国に居住したことで、韓国より密接な生活関係を中国に形成し、韓国内に財産がないか、或いは、中国に保有した財産と比較してその比重が顕著に低く、年間183日以上韓国に滞留していなかったら、韓国の居住者と認められる問題は解決できたのではないかと考えられます。

 

 

 

- 以上

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