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【韓国の会計・税務レポート】自己株式取得と関連した所得区分の判断基準

 

Scholes等は、タックス・プランニングの類型として、ⅰ)所得類型の転換、ⅱ)所得帰属者の変更、ⅲ)所得帰属時期の変更を提示しています。
(Scholes et al., Taxes and Business Strategy:A Planning Approach, Prentice Hall, pp.21-24)

 

今回は、自己株式の取得が争点となった、所得類型の転換と、最高裁判所の判決(2019.6.27.宣告 2016ヅ49525)で提示された所得区分の判断基準を紹介します。なお、所得帰属者や所得帰属時期変更の例としては、多国籍企業が移転価格を通して低税率国家に所在している海外関係会社に所得を移転することや、改正される税法の施行日を考慮して所得の帰属時期を変更することが挙げられます。

 

下記の判決は、自己株式の取得が資産取引である株式譲渡に該当するか、或いは資本取引である株式消却に該当するかについてのものです。同判決での上告理由は3つですが、原告が自己株式を株式消却目的で取得したかの当否に対する上告理由のみを取扱います。

 

 

1.事実関係

 

(1)  原告は、1973年7月16日に資本金5千万ウォンで設立され、製造業を営み、2005年11月から事業場所在地を賃貸する不動産賃貸業に転換した。

 

(2)  原告は、設立以降35年間株主変動もなく配当もしなかったが、2008年5月31日に訴外株主の死亡により、その相続人が原告の株式1,200株の相続を受け所有することになった。

 

(3)  原告は、2010年10月15日に臨時株主総会の決議を経て、2010年11月15日にA株式会社(原告の株主のうち1名が代表取締役であり、同会社の最大株主である)と土地を売渡すとする不動産売買契約を締結しており、2011年1月12日に売買代金全額を回収して所有権移転登記を行った。

 

(4)  原告の株主のうち、相続人を含めた4名(以下、「譲渡株主」と言う)は、売買代金の回収日である2011年1月12日に原告に株式買収請求書を提出しており、原告は同日付の臨時株主総会を経て(議事録には‘原告の衡平により株主の株式を譲受ける’との内容で記載されている)譲渡株主より原告の株式を買収し、同日付に譲渡株主に売買代金を送金した。

 

(5)  譲渡株主は、株式を原告に譲渡した後、譲渡所得税を申告・納付した。

 

(6)  原告は、2012年4月5日に臨時株主総会を開催し、譲渡株主より取得した株式を消却することと決議し、2012年5月10日に資本減少の登記を行った。

 

(7)  被告は、譲渡株主の取得価額と、原告より受けた売買代金との差額を擬制配当とみて、譲渡株主に擬制配当に対する総合所得税を更正した。

 

 

2.事件の争点

 

この事件の争点は、原告の自己株式の取得が、資産取引である株式譲渡に該当するか、それとも資本取引である株式消却に該当するかのものです。

 

一般的に、株式を譲渡すると、資産取引として譲渡所得税の課税対象になりますが、資本取引である株式消却に該当する場合は、擬制配当所得として総合所得税の課税対象になります。

 

即ち、非上場法人の株式を個人が譲渡するか、或いは上場法人の場合は大株主が譲渡するか、或いは証券市場外で譲渡する場合、その譲渡所得は課税対象になり、その際に適用される税率は、10%、20%、30%の比例税率です。一方、擬制配当の場合は、株式上場しているか否かとは関係なく、総合所得税の納税義務が成立します(擬制配当所得の帰属者である株主が個人である場合は、擬制配当所得を支払う法人が源泉徴収義務も負担します)。擬制配当に対しては、累進税率(6%~42%)が適用されるため、株式の譲渡が資産取引であるか、或いは資本取引であるかの当否により所得税の負担は大幅に変わります。

 

 

3.所得区分の判断基準

 

(1) 最高裁判所は、株式の売渡が資産取引である株式譲渡に該当するか、又は資本取引である株式消却に該当するかは、法律行為に対する解釈の問題で、取引の内容と当事者の意思を元に判断すべきであるが、実質課税の原則上、単なる契約書の内容や形式にのみ依存することではなく、当事者の意思と契約締結の経緯、代金の決定方法、取引の経過等取引の全体過程を実質的に把握して判断しなければならないとの基準を提示しました。

 

(2)  最高裁判所は、以下の事由に基づき、自己株式の取得取引が株式消却方法による資本減少手続きの一環として行われたことであると判断しました。

 

①不動産賃貸業を営んでいた原告が、事業の源泉となる土地の半分を譲渡して受けたお金で、取得が制限されている自己株式を同日付に取得しながら、自己株式の処分のための如何なる対策を立てることもしなかった。また、原告が売渡した土地の買受人が、譲    渡株主のうちの1人を代表取締役でありながら最大株主とするA株式会社であったことから照らしてみると、この自己株式の取得取引が単なる資産取引に過ぎないものだったのか疑わしい。

 

②原告は小規模非上場会社で、株主が全員代表取締役の親姻戚で構成されており、設立以降一度も株主変動がなかった、原告が全体株式の約50%に至る自己株式を取得した後、1年3ヶ月間自己株式の処分のために相当の努力をしたとみられる証拠がない。

 

③原告と譲渡株主間の株式売買契約書、自己株式の取得のための臨時株主総会議事録等に自己株式の今後の処理に関する内容が記載されておらず、原告が自己株式を取得して消却するまでの期間が1年3ヶ月と長期間であるが、そのような事情のみで原告に自己株式を取得する当初において株式消却の目的がなかったと断定することはできない。

 

④ 実際に自己株式が消却され、その分資本減少が発生した。

 

 

4.示唆点

 

税引き後利益の最大化を達成するため、所得の類型を変更するタックス・プランニングを樹立する時は、当事者の意思と契約締結の経緯、代金の決定方法、取引の経過等取引の全体過程を考慮しなければならないと考えられます。

 

 

- 以上

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