- 2022年4月22日
- > 会計・税務
税務調査ガイドブックの紹介(1)~税務調査開始前の段階
国税庁ホームページでは、納税者向けに税務調査手続きについて分かり易く説明した指針書
「税務調査ガイドブック」が掲載されています。
同ガイドブックでは、税務調査開始前から開始、進行段階、終了及び権利救済に至るまでの
税務調査の全過程について案内しています。
本稿では、税務調査開始前の段階の内容について紹介します。
1.「税務調査事前通知」の受領
調査当局は、納税者の権利保護及び税務調査に対する事前準備に対応できるよう、
税務調査開始15日前に「税務調査事前通知」を交付しなければなりません。
事前通知には、調査対象税目、調査対象課税期間及び調査事由、
また、部分調査を実施する場合は、部分調査の範囲等が記載されます。
但し、事前通知により証拠隠滅等が発生し、調査目的を達成することができないと認められる場合は、
事前通知が省略されることもあります
。同ガイドブックでは、納税者が事前通知を受けた場合は、
この通知に対する内容について冷静に確認することと、
より詳しい内容について知りたい場合は事前通知に記載された調査官署に連絡することを
アドバイスしています。
2.調査対象者の選定事由
調査当局は、客観的な基準に従って公正に調査対象者を選定しなければなりません。
税務調査対象者は、申告内容の適正性を検証するために定期的に選定されるか、
或いは申告内容に脱漏や誤りの疑いがある場合に選定されます。
① 定期選定の事由
ⅰ) 申告内容に対する課税資料、税務情報及び外部監査等の会計誠実度資料等を考慮し、
定期的な誠実度分析の結果、不誠実の疑いがある場合(誠実度分析は、
電算分析システムを活用して税金申告状況及び納税協力義務履行状況等を
客観的に総合して評価しています。)
ⅱ) 直近4課税期間以上、同一税目に対する税務調査を受けず、
申告内容の適正性を検証する必要がある場合
ⅲ) 無作為抽出方式による標本調査を行う場合
② 不定期選定の事由
ⅰ) 申告、誠実申告確認書、税金計算書及び支払明細書の作成・交付・提出等の
納税協力義務を履行していない場合
ⅱ) 無資料取引、偽装・加工取引等取引内容が事実と異なる疑いがある場合
ⅲ) 納税者に対する具体的な脱税情報がある場合
ⅳ) 申告内容に脱漏や誤りの疑いを認めるに足る明白な資料がある場合
ⅴ) 納税者が税務公務員に職務と関連し金品を提供したか、或いは金品提供を斡旋した場合
3.税務調査に対するオリエンテーションの実施
税務調査に対する不安や疑問を解消するため、税務調査公務員がオリエンテーションを実施します。
税務調査オリエンテーションは、事前通知を受けた日から調査開始前日までに
調査官署に申請(口頭、電話及びFAX等)を行い、調査対象の選定事由、調査進行手続き、
納税者の権利及び事前準備事項等に対する説明が行われます。
調査開始前に申請しなかった場合は、調査開始日にオリエンテーションを実施します。
4.調査延期及び調査場所の変更申請
税務調査を受ける過程で不便な事項がないよう、必要な場合は調査時期を延期するか、
或いは調査場所を変更することができます。
① 税務調査延期申請
予定時期に調査を受けることが難しい場合は、事前通知に記載された調査開始予定日の2日前までに
調査官署に「税務調査延期申請書」を提出します。
税務官署は、納税者の事情を積極的に検討し、調査開始前までに延期可否を通知します。
税務調査延期申請が可能な事由としては、天災・地変により調査を受けることが難しい時、
火災その他災害により事業上深刻な被害がある時、納税者、又は納税管理人の疾病・長期出張等により
税務調査を受けることが難しい時及び権限のある機関に帳簿・証拠書類が差押、
又は領置されている時などがあります。
② 調査場所の変更申請
税務調査は納税者の事業場で実施することが原則ですが、
事業場で税務調査を受けられないやむを得ない事由がある場合は、
調査官署事務室、その他調査に適した場所で調査を受けることができます。
調査開始予定日の2日前までに「事業場以外の税務調査場所申請書」を調査官署に提出する場合、
調査場所変更可否について調査開始前までに決定して通知します。
5.税務調査猶予申請
雇用創出中小企業に対する税務調査猶予制度を施行しています。
事前通知を受けた後、調査着手年度の常時労働者数が前年対比2%(最少1名)以上増加したか、
或いは増加させる計画のある雇用創出中小企業は、税務調査開始3日前までに調査官署に
「税務調査猶予申請書」を作成して提出します。
税務官署は調査開始前までに税務調査猶予可否を通知し、
猶予期間は調査着手予定日から2年(地方所在企業の場合は3年)となります。
もちろん、国税賦課の除斥期間の満了が差迫るか、或いは租税債権の確保が急がれる場合、
脱税情報等具体的な脱漏の疑いがある場合、
雇用増大の実現可能性が低い場合等は猶予を受けることができません。