トップページ > 会計税務ニュース > 韓国の移転価額税制(3) – 事前確認制度(APA)

STARSIAがお届けする業界NEWS 会計税務ニュース

韓国の移転価額税制(3) – 事前確認制度(APA)

事前確認制度(Advance Pricing Agreement又はAdvance Pricing Arrangement、以下、「APA」という)とは、納税者が課税当局と正常価格算定のための適正な移転価格決定方法について事前に相互合意する制度を言います。

 

今回は韓国のAPAについて説明します。

 

1. APAの概要

 

韓国のAPAについては国際租税調整に関する法律第6条で規定しています。これによると、居住者が一定期間の課税年度に対する正常価格算定方法の適用を希望する場合、対象期間の課税年度のうち最初の課税年度終了日までに、国税庁長に申請を行うことができると規定しています。

 

即ちAPAとは、納税者が国外特殊関係者間での国際取引と関連した正常価格算定方法及びその具体的内容等に関して課税当局に事前に申請し、課税当局は当該申請に基づいて納税者に適用される正常価格算定方法等を承認する制度です。APAにより、納税者は移転価格課税に関する予測可能性を確保することができます。

 

なお、APAは原則的に将来期間に適用される移転価格決定方法を課税当局と事前に協議する制度ですが、申請対象期間以前の課税年度に対し、正常価格算定方法を遡及申請することもできます。

 

APAの対象期間は通常5年であり、過去の課税年度に対する遡及申請(Rollback)する場合は、二国間APAは5年、一国内APAは3年の範囲内で遡及申請することができます。

 

2. APAの類型

 

APAには、両国課税当局間の協議が必要な二国間APA(Bilateral APA)及びこの様な協議なく一方の課税当局のみと締結する一国内APA(Unilateral APA)があります。

 

移転価格に関する二重課税問題を完全に解決するためには二国間APAが望ましいですが、二国間APAの場合、他方の課税当局との協議手続を経るため、一般的に一国内APAより所要時間が長くなる傾向があります。

 

3. APAのメリット

 

納税者が申請したAPAの合理性を認めて課税当局が承認する場合は、納税者が一定前提条件の下でその内容に基づく取引を実施している限り、移転価格課税が行われなくなります。

 

従って、APAを申請して承認を受ける場合、以下のメリットがあります。

 

①    納税者は国外特殊関係者間での国際取引に対し、将来課税当局が移転価格税制を適用する場合に発生する税務上の不確実性を排除することができます。

②    納税者はAPA承認を受ける場合、移転価格関連税務調査対応等に必要な人力及び資金が発生しません。

③    両国課税当局が相互合意する二国間APAの場合、移転価格課税による二重課税問題を排除することができます。

 

4. APAの処理手続

 

(1) 事前相談(Pre-filing conference)

事前相談とは、APAを公式に申請する前にAPAの申請可能可否などについて納税者とAPA実務チーム間で非公式に進行する会議です。韓国は「国税庁国際協力担当官室」でAPAの実務を担当しています。この相談を通してAPAの今後の進行計画、主要争点、APA申請に必要な資料及び提出書類などを論議します。

 

(2) 申請書提出

APA対象期間、対象国際取引、取引当事者及び正常価格算定方法などを記載した「正常価格算定方法の事前承認申請書」をAPA申請対象期間の最初の課税年度終了日までに提出しなければなりません。なお、APA申請時の添付書類は以下の通りです。

①     取引当事者の事業沿革、事業内容、組織及び出資関係などに関する説明資料

②     取引当事者の最近3年間の財務諸表、税務申告書の写し、国際取引に関する契約書の写し及びこれに付随する書類

③     申請された正常価格の詳細算出方法を具体的に説明する以下の各資料

A.  比較可能性評価方法及び要素別差異調整方法
B.  比較対象企業の財務諸表を利用する場合、適用された会計処理基準の差異及びその適用方法
C.  取引別に区分した財務資料又は原価資料を利用する場合、その作成基準
D.  2つ以上の比較対象取引を利用する場合、正常価格と判断される範囲及びその導出方法
E.  正常価格算定方法の前提となる条件又は仮定に対する説明資料

④     実際の取引価格が正常価格算定方法を適用して算出した正常価格と異なる場合で、正常価格を取引価格とみなして法人税申告を行った場合、実際の取引価格と正常価格との差異を調整する方法に関する説明資料

⑤     申請された正常価格算定方法に関し、締約相手国との相互合意を申請する場合は相互合意手続開始申請書

⑥     その他事前申請された正常価格算定方法の適正性を証明する資料

 

(3) 審査

APA申請書及び添付資料は、一般的に取引相手の管轄国別に指定された担当者により検討されます。

 

国税庁担当者は審査過程で提出された資料に対する説明、追加資料の提出などを要求することができます。また、正常価格算定方法の変更又は修正、比較対象企業又は取引の変更を要求するか、或いは正常価格算定方法の前提となる仮定や条件を追加することができます。申請人も事前承認を受けるまでの間、事前申請内容を変更するか、或いは事前申請を撤回することができます。

 

(4) 相互合意手続の進行

納税者が二国間APAを申請する場合、国税庁は相対国の課税当局と相互合意手続

を進行します。

 

(5) 事前承認

国税庁は相対国の課税当局との相互合意手続で正常価格算定方法に関する協議が行われる場合、協議に基づいて事前承認を行うことができます。一国内APAの場合、相対国の課税当局との相互合意手続が不要であるため、審査手続後に事前承認が行われます。

 

(6) アニュアルレポート(Annual Report)の提出

事前承認を受けた納税者は、対象事業年度の課税標準申告期限の翌日から6月以内に以下の事項を含めたアニュアルレポートを提出しなければなりません。

 

①     事前承認された正常価格算定方法の前提となる根拠又は仮定の実現状況

②     事前承認された正常価格算定方法により算出された正常価格及びその算出過程

③     実際の取引価格と正常価格が異なる場合、その差異に対する処理内訳

④     その他事前承認時にアニュアルレポートに含むものと定められた事項

 

(7) 事前承認の取消、撤回及び訂正

アニュアルレポートが提出されていないか、APA申請時の提出書類又はアニュアルレポートの内容のうち、重要な事項が虚偽で作成された場合、あるいは事前承認内容又はその条件を遵守していない場合などの事由がある場合は、APA承認を取消す又は撤回することができます。

 

5. 韓国のAPAの執行状況

 

韓国国税庁は1997年5月にアメリカと最初のAPAを締結しており、2010年末現在において255件が申請され158件が承認されました。近年においては毎年申請が持続的に増加しており、現在韓国国税庁はアメリカ、日本及び中国などと活発にAPAを進行しています。

 

日本とのAPA締結状況は以下の通りです。

(単位:件数)

 

2010年度

累計

一国内APA

二国間APA

一国内APA

二国間APA

日本

3

3

19

18

 

 

 

 

 

なお、2011年9月に発表された韓国国税庁の2010年APA Reportによると、APA申請から承認までの期間は、2010年に承認された二国間APAにおいては平均2年3ヶ月が、一国内APAの場合は平均1年7ヶ月を要したと発表されました。

ページトップへ

月別